主訴:パーキンソン病
10年前に発症。症状はすくみ足、動作がゆっくり、右手の震え、腰痛、足のむくみ。
※身の回りを娘さんが世話されており、通院は難しく往診にて対応。
■東洋医学的診断と治療
パーキンソン病はいまだにこれといった有効手段がない病気です。
しかし、東洋医学的観点から治療を行うことで症状の改善が見られる場合があるのです。
この方の脉は脉の皮膚に近い部分は弦脈、しかもやや細い脉で一呼吸あたりの脉速がやや遅く感じられます。また、脉のやや深い部分においては虚ろな状態で、全体が浮いている状態です。
腰が曲がって前屈姿勢となっているため、腹証が取りづらいのですが、腹壁は硬く胃の部分からみぞおちにかけてつまっています。
弦というのは、肝蔵の病変で起こる脉ですが、この方の病態の主は脾蔵と腎蔵です。
それを示すのが、脉速が遅い、脉の深い部分が虚ろであるということと、腹部の状態です。
脾蔵は消化器系の働きを裏で支える役割がありますが、高齢による腎蔵の弱りと相まって今の状態になっているようです。
脾蔵と腎蔵は、身体の陰を主る蔵であり、その部分が弱ることを陰虚と言います。
陰虚の状態となると、「動」の性質をもつ陽気を抑えておくことができにくくなります。それを、脉が全体に浮いているというところから読み取れます。
身体を動かそうとする気の働きかけ、それが筋骨を動作させることになるのですが、陰虚であるがために筋骨への働きかけが鈍っているのです。これがすくみ足、動作がゆっくりとなる原因となっているようです。
「動」の性質をもつ陽気を抑えておく陰の働きが弱いので、右手の震えが起こっています。
脾腎を中心とする陰虚、そこから発生した肝気の動揺が起こす病態と判断して治療を行いました。
陰の経絡が交わる三陰交、腎蔵を補う照海、腎兪、肝気を鎮める肝兪、臨泣などのツボを用いて陰を補いつつ、陽気を抑える処置をとりました。
この処置によって、動作速度、動作をする時の動きやすさに改善が見られました。また、意欲が湧いてきて、この方は自分で洗濯をしようという気になってきたと言います。
パーキンソン病は、気持ちの状態によって症状の変化があります。ストレスがあったり、焦って動こうとしたりすると余計にうまくいきません。
このような状態は肝蔵と深くかかわるものであり、前述の肝気の動揺が起こすものであります。つまり意欲の向上というのも、身体の変化として重要視しなければならないということです。
この方の症例は完治例ではありません。あえてそれを掲載するのは、発症から10年経って病気が進行した状態でも、変化があるということと、意外と知られてない気持ちの状態と病状の関係を知っていただくためです。ご覧の方の参考になれば幸いです。